前回まで電場や磁場が電荷と電流によってどのように作られるかを見てきましたが、普段は電気や磁気を持たなくても電場の中に置くことによって電場の発生源になる物質や、磁場の中に置くことによって磁場の発生源となる物質があります。
前者を誘電体、後者を磁性体と呼びます。
まず、誘電体について考えることにします。
電気を持っていない物質という表現をしましたが、通常、私たちが接することの出来る物質は原子からできていることはよく知られています。
また、原子はプラスの電荷を持つ原子核とマイナスの電荷を持つ電子から構成されていることも知られています。ですから、電気を持っていない物質といってもその中には莫大な数のプラスとマイナスの電荷が存在しており全体として電荷の総和がゼロとなっているにすぎないのです。例えば水素ガス1グラム中にはアボガドロ数だけの電子があり、その電荷の総量は次のようになります。
大気圧中の水素ガス1ccにしても、
となります。
以前お話したように1クーロンの電荷を持つ二つの物体を1メートル離しておいたときの力が、90万トンであることを考えればこの電荷の量は大変なものです。幸い水素ガスの中には電子と同じ数の陽子が存在し、それがちょうど電子と同じ大きさのプラスの電荷を持っていますので、全体として中和しており、このような巨大な電荷がそのまま現れることはありません。
これからしばらくの間、電気を通さない絶縁体について考えます。
このような物質を電場の中に置くと、全体としては電荷の総和はゼロのままですが、電場の力によってこれらの電荷の位置が変化しますので、電荷が打ち消し合わない微小領域が生じ、その結果、物質内部や表面に電荷が発生することがあります。ただし、金属のような導体ではありませんので、電場が時間的に変化しないときは電荷の移動はありません。
ここで電荷の移動を表すベクトル P を導入します。
このベクトルの大きさは、移動した電荷と移動距離の積で、方向は移動した方向と一致するものとします。また、このベクトルは物質の中に連続的に分布していると考えることができます。
今、物質の中に微小な領域 ΔV を考えます。この領域を囲む閉曲面を ΔS とし、この曲面上の外向きにとった単位法線ベクトルを n とすればこの領域から出ていく電荷の量は、
となります。これよりこの領域に発生する電荷 ΔQ は、次のようになります。
ここで、ガウスの発散定理を使い、表面積分を体積積分に書き換えています。
この結果は、物質中にこのような過程で - divP の電荷密度が発生したことになります。この電荷密度によっても電場は作られますので、前節で述べた電荷が作る電場の方程式、
----- (1)
は、次のように変更する必要があります。
この式を変形すると次式が得られます。
----- (2)
このように絶縁体の電気特性はこのベクトル P で決まることになりますので、今後、このベクトルのことを分極と呼ぶことにします。
ここで、
----- (3)
と定義すれば(2)式は次のようになります。
----- (4)
ここで、 D は電束密度、または電気変位と呼ばれています。
通常電場 E がそれほど大きくないときは、分極 P は電場に比例します。
この場合、電束密度 D も電場に比例しますので、(3)式は、次のように書くことができます。
----- (5)
ここに比例定数 ε は誘電率と呼ばれ、誘電体の電気特性を表現しています。
ちなみに真空中では分極が存在しないので、(3)式は、
----- (6)
となり、(5)式との対応から ε0 が真空の誘電率となることが分かります。
次に磁性体について考えます。
磁性体を磁場の中に置くと、この磁性体も磁気を帯び磁場の源になることは、よく知られています。
この性質を誘電体のとき少し述べたのと同じように、ミクロな物質の構造から考えていくこともできますが、ここでは磁場を作るのが電流であることを考えて、磁性体の中をある種の電流が流れるものとして、議論していきます。
この電流の性質から磁性体の磁気特性を調べようというわけです。
まず、磁性体を磁場中においても普通それによって、この磁性体が全体として電気を帯びることはありません。
このことはこの電流が磁性体の外に流れ出さないことを示しています。
また、磁性体の各部分が電気を帯びることもないので、ある領域を考えた場合、この電流がこの領域に入る量と出て行く量が常に等しくならなくてはいけないことになります。この領域を V 、この領域を囲む閉曲面を S とし、この曲面上の外向きにとった単位法線ベクトルを n とすれば、この電流 J にたいして次の関係が成り立つことになります。
この領域 V は、任意に取ることが出来るので次式が成立します。
----- (7)
ベクトル解析の関係から発散を取ってゼロとなる量は、あるベクトルの回転として表わすことができます。つまり、
----- (8)
この電流も磁場を作りますので、前節で述べた電流が作る磁場の方程式、
----- (9)
は、次のように変更する必要があります。
この式を変形すると次式が得られます。
----- (10)
このように磁性体の磁気特性は、このベクトル M で決まることになります。
今後、このベクトルのことを磁化ベクトルと呼ぶことにします。
ここで、
----- (11)
と定義すれば(10)式は、次のようになります。
----- (12)
ここで、磁場の強さは磁場の強さと呼ばれています。
通常、磁場の強さ H がそれほど大きくないときは、磁化ベクトル M は、磁場の強さに比例します。
この場合、磁束密度 B も磁場の強さに比例しますので、(11)式は、次のように書くことができます。
----- (13)
ここに比例定数 μ は、透磁率と呼ばれ、磁性体の磁気特性を表現しています。 ちなみに、真空中では
磁化ベクトルが存在しないので、(11)式は、
----- (14)
となり、(13)式との対応から μ0真空の透磁率となることが分かります。
ここでは、磁性体の性質を磁性体内を流れるある種の電流として議論したために、ここで導入された磁化ベクトル M の物理的な意味が誘電体のとき導入された分極 P のように、はっきりしていません。
そこで(11)式の両辺の発散をとりますと、
となり、さらに磁束密度 B の発散はゼロですから上式は、次のようになります。
----- (15)
一方、電荷密度が存在しない場合の電場に関する方程式は、(2)式より、
----- (16)
となりますが、両式を比べると磁化ベクトル M が、誘電体の分極 P と同じような形で磁場の生成に関与していることが分かります。
ここではこれ以上議論しませんが、M については、後にはっきりとした物理的意味を与えます。
今回は、誘電体や磁性体が存在する場合の電場や磁場について議論しました。
その結果、これらの物質が存在する場合でも分極分極P や磁化ベクトルM、または電束密度Dや磁場の強さ H を導入することによって電荷および電流がこれらの場を発生させていることに変わりないことを示しました。
ここで、これまで得られた電場と磁場に関する方程式をまとめると以下のようになります。
----- 3章 電場の発生 (10)
--------- 4章 磁場の発生 ( 6 )
----- (4)
----- (12)
ただし、
----- (3)
----- (11)
誘電体や磁性体の存在する場合を含めて電場や磁場に関する経験的な法則をこのように簡単な方程式としてまとめることが出来ました。
ただし、これらの方程式を解くには、誘電体の分極 P が電場とどのように関係するのか、磁性体の磁化ベクトル M が、磁場とどのような関係にあるかを知る必要があります。
しかし、これらの関係は各々の物質特有の性質として決まるもので、電場や磁場の法則からは導くことはできません。
今までの議論で、電場と磁場は密接な関係にあることが分かりました。
次回は、電荷が生成も消滅もしないという経験的な事実から、電場や磁場に関するこれらの方程式を完全なものとしたマックスウェルの方程式を導くことを試みます。
この方程式により、電場と磁場は電磁場という統一的な概念として捉えることができるようになります。
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