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電磁気学入門

マックスウェルの応力

前回までに物質中の一般的な電磁場の基礎方程式、すなわちマックスウェルの方程式が得られました。

今回はこの方程式を使って、第2章で述べた電荷や電流が電磁場から受ける力を誘電体や磁性体などの物質が含まれる場合にも拡張することを考えます。

電荷 q および電流 i の受ける力は第2章でも述べたように次のローレンツ力で計算できます。

式   -----(1)

これより、単位体積当たりの電荷密度を ρ 、単位面積を通過する電流密度を J とすれば、領域 V の電荷と電流に働く力の合計は、次の式で計算できます。

式   -----(2)

この式は電荷や電流に働く力ですから、これを使って誘電体や磁性体に働く力を計算することはできません。
それでは、このような力を求めるにはどのようにすればよいのでしょうか。
第5章で述べたように電場の中で誘電体内部には、次の分極電荷

式    ----- (3)

が発生します。この電荷にも電場による力が働くのでしょうか。
誘電体を電場の中に置くと、全体としては電荷の総和はゼロのままですが、電場の力によってこれらの電荷の位置が変化しますので、電荷が打ち消しあわない微小領域が生じ、その結果、物質内部や表面に電荷が発生します。これは、誘電体内部をミクロに見たときの分極電荷が発生するメカニズムですが、このことから分極電荷に関しても次のような力が働くことが分かります。

式    ----- (4)

また、第6章で誘電体が分極するとき次の分極電流が流れることを述べました。

式    ----- (5)

この電流もマクロに見ると電荷の移動を伴った電流ですから、ローレンツ力から

式    ----- (6)

の力を受けることが分かります。

次に磁性体について考えます。磁性体の場合は、誘電体のようにミクロな電荷の存在は考えませんでした。

式 ----- (7)

この磁化電流も通常の電流と全く同じように磁場を作りますから、電荷や電流に力を及ぼします。したがって、磁化電流も電荷や電流から反作用として力を受けることが分かります。
これは磁化電流が電磁場によって力を受けていると言い直すことができます。この力は作用反作用の 法則から通常の電流が電磁場から受ける力と全く同じように表されなければならないことになります。
すなわち、磁化電流の受ける力は

式    ----- (8)

となります。
これより誘電体や磁性体が電磁場から受ける力は、分極電荷や分極電流、そして磁化電流を通常の電荷や電流と同様に考えて計算できることになります。
したがって、誘電体や磁性体も含めた場合の電磁力は、(2)式の中の電荷 ρ を ρ + ρP に、電流密度 JJ + JM + JP と書き直した次の式で表現することができます。

式    ----- (9)

ところで、物質中のマックスウェルの方程式、

式

式

より得られる関係式

式

式

を使うと(9)式は次のように変形されます。

式

マックスウェルの方程式、

式

を使うと上の式は、

式

となります。この式を更に変形すると、次の成分式が得られます。

式    ----- (10)

ここに、δi j  はクロネッカのデルタであり

式

式式

が成り立ちます。
また、同じ添字が同じ項に2回現れた場合は、その添字について1から3までの和をとると約束します。この約束は、アインシュタインの規約とよばれ、例えば次のようになります。

式

ここで次のテンソルを定義します。

式    ----- (11)

これより(10)式は、

式    ----- (12)

となります。この式は、ガウスの発散定理を使って次のようにも書けます。

式    ----- (13)

ただし、S は領域 V の境界面であり、n は領域 V から外向きにとった S の単位法線ベクトルです。
これで誘電体や磁性体も含めた電磁力の計算方法が得られました。

ここで定義されたテンソル Ti j は、マックスウェルの応力テンソルと呼ばれています。応力テンソルと呼ばれる理由は、(12)式の右辺第二項が応力が物体に与える力と同じ形をしているからです。

それでは、(12)式や(13)式の右辺代一項は、どのような力に対応しているのでしょうか。
この力は、

式  ----- (14)

を電磁場の単位体積当たりの運動量と解釈すれば、電磁場の運動量が誘電体や磁性体の影響によって時間的に変化することにより、これらの物質が受ける反作用と考えることができます。
この解釈が正しいことは次回に示すことにしますが、低周波領域ではこの力は通常無視することができます。

そこで、これらの式の第二項のマックスウェルの応力による力ついて、もう少し調べることにします。
(13)式で電磁場の運動量変化に起因する第一項を無視すれば(11)式より、

式

となります。
ここで、局所座標の成分でこの力を表すことを考えるために、境界面内の単位ベクトルを、e1e2 とし、

式    ----- (15)

と書けば、この力は次のように書ける。

式

式

式   ----- (16)

この力をもう少し直感的に捉えられるように、ここで次のような特別な場合について考えます。まず、電場および磁場が法線方向を向いている場合は、

式

式

となります。
また、電場および磁場が法線方向と垂直な方向にある場合は、次のようになります。

式

式

これより、面に垂直な電磁場は面を吸引する方向に、また面に平行な電磁場は面を反発するような力を与えることが分かります。

今回は物質に対して電磁場がどのような力を与えるかについてみてきましたが、次回は電磁場の運動量やエネルギーがどのように保存されるかを調べます。

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